最近の作品は「インジェクション・ディバイシス(※注1)」っていう、私が作ったオリジナルストーリーに基づいたテーマで制作するようにしていて、その中のひとつの作品が今回の「細胞融合増殖抑制装置001」です。
自分の中にある不安と危機感
※1 インジェクション・ディバイシス
あらすじ:2047年、AI 技術は人間の意識を再現できるようになった時代の物語。瀬戸内市立大学のB研究室では人間の寿命に対する研究を行っていたが、その過程で図らずも人類を滅ぼすウイルスをつくりあげてしまった。ウイルスに感染した黒木ユウキは、首に装着したインジェクションデバイスからワクチンを定期的に注入し続ける日々。だが、その副作用によってユウキは驚異的な力を手にいれたのだった。
「インジェクション・ディバイシス」シリーズは、ウィルステロの話なんですね。これはコロナの前から作っていた話なので、やりづらくなってしまったんですが。
コロナの前は毎年スペインに行ってたんですが、治安が悪くなると機関銃を持った警察官がいたり、私が住んでるときもテロがあって、美術館のテーマもテロや移民に変わったり。そういう危機感とか恐怖が私の中にあって。
「細胞融合増殖抑制装置001」2022
「Injection Deviceを持つ」2022
誰もが持つ漠然とした不安や経験、恐怖。あとはそういう不安を感じてない方もいるから、問題提起的な部分と。日本は幸せな国だとは思うのですが、それでも地震を心配して小さな頃から学校に防災頭巾を常に置いておくような、そういう不安は常に持っているのかなと思います。
問題提起と、日本特有の潜在的不安
作家インタビュー
最初に描いたガスマスクの絵は自画像だったんですけど、若い頃にアフガニスタン・バーミヤーン谷の遺跡をタリバン勢力が破壊したテロ事件がありまして。そこに対する自分の感情をガスマスクを使って表現しました。パッと見はまったくわからないんですが。
ほかにもスペイン・マドリードに留学しているときに、近くのアトーチャ駅で列車のテロがあったんですよ。そのとき夜の10時になるとアパートのみんなが窓を開けて、(抗議で)フライパンを叩いたり、病院に花がちょっとずつ増えていくのとかを見て。すごく脳裏に残っていて、それが作品に影響している部分はあると思います。
脳裏に残っているテロ事件の光景
「ガスマスクを被らなければならない」2015
廣戸 絵美
1981年広島県生まれ。広島市立大学芸術学部油絵学科油絵専攻卒業、同学部研究科絵画専攻修了。道銀文化財団野田塾研究生として北海道にて制作活動 (2008-2012)。ホキ美術館開館記念特別展。第1回存在の美学-伊達市噴火湾文化研究所同人展 (2012, 2014高島屋各店)。超写実絵画の襲来 ホキ美術館所蔵(2020 Bunkamura ザ・ミュージアム), ホキ美術館名品展(2020 奥田元宋・小由女美術館, 2021 倉吉博物館、宮崎県立美術館、金沢21世紀美術館)
今年で56歳になったんですけれども、僕世代が小学校の頃はメディアというとテレビくらいしかない時代で。クラスで朝の話題っていうと、みんな同じテレビアニメを見てるわけです。共通言語というか、そういうところがアニメを好きになったきっかけではあります。
若い頃スペインでアニメ好きなスペイン人と話したときに、やっぱり私自身を形づくっているものがサブカルとかアニメに影響されて出来上がってるっていうことに気づいて。そこから最初はアニメとのコラボ的な作品を作って、次第にオリジナルストーリーを作るようになって。アニメと写実絵画、両方への観点を持ちたいと言うところがあって今の作品に至っているところです。
アニメと写実絵画、両方への観点を持ちたい
「真〇〇・マ〇・イ〇〇〇〇〇〇」2011
※現在ホキ美術館での展示はありません
平面だけの作品ではなく立体作品も普段から作っているのですが、意識としては油絵の具だけに縛られず、自分自身の周りにある全ての要素を使って表現を拡張したいっていう思いがあるので、それが今回は融合して出来上がったというところでしょうか。
人間って何かしらの刷り込みとか縛りが存在すると思うんですよね。画家も含めて。私はそういうものを一切排除したい人間なので、既存を破壊して新しいものを作っていきたいっていうところはあります。
今回のフレーム部分は樹脂系のものを合体させて、たぶん30以上のパーツを合体させて出来てるんですけど、その組み合わせとヤスリがけが一番大変でしたね。もう筋トレに匹敵するぐらいでした。
平面と立体の融合
周りのすべてを使って表現を拡張したい
「グルア」2019
1967 年 静岡県生まれ 。多摩美術大学美術学部絵画学科油画専攻卒業 、同大学院美術研究科絵画専攻修了。第34回昭和会賞展日動火災賞受賞(1999)、文化庁芸術家派遣在外研修員としてスペインに渡りマドリード・コンプルテンセ大学に修学(2001)。第7回前田寛冶大賞展佳作賞一席受賞(2007 日本橋高島屋・倉吉美術館)。スペインMEAM ホキ美術館展(2018), 超写実絵画の襲来 ホキ美術館所蔵(2020 Bunkamura ザ・ミュージアム)。 広島市立大学芸術学部准教授。
石黒 賢一郎
写実絵画を描き始めた一番の理由は、第一には視力良かったからだと思います。もう今はちょっと老眼になってしまいましたが、見えないものまで見えるぐらい細かいものを描くのが好きだったということと。これは逃げられない自分の業ですね。
中学のときに美術の授業があって、全員の作品が廊下に飾られたときに、僕の手だけなんか変だと。猿っぽいなと思ったら、技術がないのに全部毛穴を描いていたから。物が見え過ぎちゃうので、それがきっかけでこの細かい仕事にいったのだとは思います。
でも細かいところを意識すると全体が見えなくなるんですよね。絵画だからそこだけ強調されてしまったりとか。そこは一番注意しないといけない場合があります。常に全体を見なさいっていう話は学生にもよくしてますし、自分もすごく注意する。細かい仕事だとどうしてもそうなるかなという気がします。
群を抜く視力の良さが写実の道へのきっかけ
衝撃を受けたのは、アート作品でいうと、アンゼルム・キーファーってドイツの作家がセゾン美術館でやっていた大規模展を学生の時にみたんですが、これには衝撃を受けました。写実とは関係ないんですけど、かなりすごい展覧会だったんですよ。
最近で衝撃を受けたのは 「チェンソーマン」っていうアニメですね。まず初めに背景が素晴らしくて、今まで見た中でも相当レベルが高かったです。
交流のある作家さんは、ホキ美術館の作家さんは仲いいですね。たまに電話をする人もいっぱいいるんですよ。それとは別で、スペインに住んでるときの師匠で、マヌエル・フランケロっていう作家がいるんですけど、今でもやり取りをしています。写実と関係ないアーティストで言えば、雑草や植物を木彫でつくる作家で、須田悦弘っていう同級生がいて。有名作家なんですけど一番仲良くて展示もよく行ったりしています。
衝撃を受けたアンゼルム・キーファー
マドリードのマヌエル・フランケロケロの工房にて
須田悦弘「雑草」木彫
いま広島に単身赴任してるのですが、近くのスーパーで瀬戸内牛を買ったら今まで食べた肉の中で一番美味しくて、それをご褒美に食べたり。たまに近所のバーに行ったり、あとはやっぱりアニメを見ることが気分転換になってます。異世界召喚系が好きですね。最近は「異世界でチート能力を手にした俺は、現実世界をも無双する」だったかな、見ています。ハマっていたのは「ソードアート・オンライン」とか「キングダム」「ハイキュー!!」とか面白くて、いろいろと参考になります。最近は娘が「僕のヒーローアカデミア」にはまっているので一緒に見てます。アニメの話は止まらなくなるんです。
欠かせないアニメの存在
自分の作品でやりたかったことに少しは到達したんですが、 もう少し発展していけるかなというところがあるので、しばらくはこのシリーズでやろうかとは思っています。まだ見る人には伝わっていないところがあるので、作品自体もブラッシュアップして「インジェクション・ディバイシス」を広めていきたいですね。 最終的にはアニメを制作したいと思っています。来年の春ぐらいまでが、ひとつの区切りではないかなと考えているところです。
ブラッシュアップして
このシリーズを広めていきたい
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